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作成: 1998/10/30 羽田 肇

データ番号   :110008
高密度ガーネットセラミックスの合成と焼結特性
目的      :高密度ガ−ネット焼結体を得るための手法の1つである尿素法による易焼結性粉末の合成、及びその焼結体の特性の研究
研究実施機関名 :科学技術庁無機材質研究所第4グループ
応用分野    :原子炉材料、固体レーザーのホスト材料、高温用窓材

概要      :
 高密度ガーネット焼結体を得る方法として、組成制御が難しく、育成に時間を有する単結晶の合成法ではなく、組成制御が容易な尿素法を利用し、尿素法によって合成した易焼成粉末体を用いることによって、単結晶ガーネットとほぼ同等の高密度焼結体を得ることが可能となった。さらに高密度焼結体であるため、高強度・耐クリープ性に優れ、ナトリウムに対して優れた耐食性を示すことから、原子力設備用材料として有望である。
 

詳細説明    :
 イットリウムあるいは希土類を含んだアルミニウムガーネット、鉄ガーネットの高密度化として、チョクラルスキー法や浮遊帯域法、あるいはフラックス法による単結晶合成が上げられる。しかし、それらの方法は組成制御が難しく、単結晶合成時の液相と固相間の希土類の分配係数などの問題が考えられるため、組成制御が容易でかつ単結晶ガーネットとほぼ同等の高密度セラミックスを得る方法が求められる。
 
 固相粉体による固相反応は、反応性、焼結性に問題があり、また組成の均一性を達成する目的としては、共沈法が利用されるが、共沈法で得られた粉体はあまりにも微粉であるため、圧粉体密度の低下あるいは一次粒子の強固な凝集といった結果を招き、高密度ガーネットセラミックスを得ることができない。そこで、高密度ガーネットセラミックスを得るための方法の1つとして、均一沈殿法の一種である尿素法が上げられる。
 
 尿素法とは尿素を溶解した溶液を加水分解させて沈殿剤を生成させる方法であり、尿素の加水分解速度を制御することよって、粒子形状や大きさを精密に制御することができる。そのため一次粒子が分散しすい粉体を得ることができ、圧粉体密度の低下あるいは一次粒子の強固な凝集といった結果を招く恐れがなく、高密度ガーネットセラミックスが可能となる。図1には尿素法粉体の合成のフローチャートを示す。この粉体は、仮焼時には、20nm程度の大きさを持つ。また焼結助剤としてシリカ成分を添加しているが、焼結体の粒界にシリカ成分の析出を考慮すると少ない方がよい。


図1 Flow sheet of powder preparation by urea method.



図2 Comparison of sintered densities of the powders for precipitate and oxide mixture calcined at 800℃. Solid circles and solid line: precipitate. Open circles and dashed line: oxide mixture.

 図2にはイッテリビウム・鉄・ガーネットに関して、尿素法で得られた粉体を800℃で仮焼し、その仮焼粉の各温度での焼結密度と固相混合粉体との関係を示したものである。両粉体とも1400℃においては、粉末X線回折パターンを見るかぎりガーネット単一相である。尿素法粉体では1100℃付近から急激に密度が上昇し、1400℃ではほとんど理論密度に達し、ほとんど空孔は観測されない。一方、固相混合粉体では、1400℃に到るまで理論密度に達しておらず、空孔が多く見受けられ、焼結性が劣ることが判る。さらにX線回折では見出されなかったFe2O3相がEDX分析によって観察されたことから、反応性に関しても十分ではない。


図3 The relative density a) and transmittance b) of yttrium aluminum garnet as a function of composition.

 図3aにはイットリム・アルミニウム・ガーネット(YAG)に関して、組成の変化と相対密度との関係を示す。化学量論組成(Y2O3 37.5mol%)からずれると、密度の低下が見られる。これは析出異相が99%以上の高密度化を阻害するためである。したがって、高密度焼結体を得るためには、組成を均一に混合にする必要がある。固相混合粉体による反応の場合では、組成の制御や組成を均一に混合することが難しく、高密度ガーネット得ることができない。
 
 一方、尿素法は組成及び粒子形状や大きさを精密に制御できるため、高密度ガーネットを得ることが可能となる。図3bにはYAGの組成変化と光透過率との関係を示す。高密度化及び化学量論組成によって、単結晶体に匹敵する多結晶の透明なYAGを得ることができる。しかし化学量論組成から0.1モル%ずれることによって光透過率に大きな影響を及ぼすため、高密度化と同時に、組成変動を小さく抑えることができる尿素法が有利である。さらに高密度化によって機械的特性を向上させることが可能となるため、室温は当然のこと、高温領域でも高強度及び耐クリープ性に優れた特性を示すことが可能となる。また溶融ナトリウム金属に対して極めて優れた耐食性を示し、単結晶ガーネットと比較しても同等の特性を示すことが報告されている。以上の高密度ガーネットの特徴を生かすことによって、高速増殖炉及び高温用窓材などの原子力関係施設材料としての応用が可能となると思われる。
 

コメント    :
 均一沈殿法の一種である尿素法は、単結晶ガーネットに匹敵する高密度化を可能とし、短時間で組成制御を単結晶合成よりも容易に行うことができ、さらに光学的・耐食性にも単結晶と同等のレベルを有する特性を示すことから、コストなどを含めて原子力関連施設材料の開発には非常に有利な合成法であると考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
Preparation of Ytterbium Iron Garnet Powder by Homogeneous Precipitation Method and Its sintering
H. Haneda, T. Yanagitani*, A. Watanabe and S. Shirasaki
National Institute for Research in Inorganic Materials, 1-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-0044, Japan. *Konoshima Chemical Co. Ltd., 80 Koda Takuma-cho, Mitoyo-gun, Kagawa 769-0011, Japan
J. Ceram. Soc. Jpn. Inter. Ed. Vol. 98 (1990) pp. 297-304.

原論文2 Data source 2:
Preparation of Garnet Powders by The Urea Method and Some Properties of Polycrystalline Garnets
H. Hanneda, T. Yanagitani*, M. Sekita, F. Okamura and S. Shirasaki
National Institute for Research in Inorganic Materials, 1-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-0044, Japan. *Konoshima Chemical Co. Ltd., 80 Koda Takuma-cho, Mitoyo-gun, Kagawa 769-0011, Japan
Mat. Sci. Monographs 66D (1991) pp. 2401-2409.

参考資料1 Reference 1:
Processing and Mechanical Properties of Polycrystalline Y3Al5O12(Yttrium Aluminum Garnet)
K. Keller, T. Mah and T. A. Parhtasarathy
Universal Energy Systems, Inc., Dayton, Ohio 45432
Ceram, Eng. Sci. Proc. 11 [7-8] (1990) 1122.

参考資料2 Reference 2:
Creep Mechanism of Polycrystalline Yttrium Aluminum Garnet
T. A. Parthasarathy, T. Mah and K. Keller
Universal Energy Systems, Inc., Dayton, Ohio 45432
J. Am. Ceram. Soc. 75 [7] (1992) 1756.

参考資料3 Reference 3:
Sodium Ion Diffusion in Some Ceramics under Molten Sodium Condition
H. Haneda, S. Otani, T. Mitsuhashi, S. Shirasaki, E. Yoshida and S. Kano*
National Institute for Research in Inorganic Materials, 1-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-0044, Japan. *Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation, 4002 Narita, Oarai, Higashi-Ibaraki-gun, Ibaraki 311-13, Japan
Proc. of the Int. Symp. on Material Chemistry in Nuclear Enviroment (1992) p. 295.

キーワード:高密度ガーネット、均一沈殿法、尿素法、易焼成粉体、イッテリビウム・鉄・ガーネット、イットリウム・アルミニウム・ガーネット、
high density garnet, homogenous precipitation method, urea method, highly sinterable powder, Yb3Fe5O12, Y3Al5O12
分類コード:110303, 110503

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