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作成: 1997/10/24 三橋 武文

データ番号   :110003
耐腐食性セラミックスの開発
目的      :耐腐食性高密度YAGセラミックス合成法の開発
研究実施機関名 :無機材質研究所、動力炉核燃料事業団大洗工学センター
応用分野    :高温窓材、抗食ライニング材、発光管材、レーザーホスト材、耐プラズマ壁

概要      :
 高温アルカリ水、液体ナトリウム環境下で優れた耐食性を示すイットリウムアルミニウムガーネット(YAG)の欠点であった難焼結性を克服するとともに、高密度化、粒界構造・組成制御を図る技術を開発した。本技術により作製されたセラミックスを650℃の液体金属ナトリウム、250℃の高温アルカリ水で腐食試験をした結果、ほとんど腐食が認められず、今後、抗食ライニング材あるいは高温窓材としての応用が期待できる。
 

詳細説明    :
 YAGは格子定数が大きく、さらに立方晶系に属することから、多結晶体であっても優れた機械的・光学的特性を期待できる材料である。しかしながら、その原料となる酸化イットリウム、酸化アルミニウムとも難焼結性を示す材料であるため、不純物相の無い無気孔セラミックスを得ることができなかった。高密度焼結体を得るにはHIP(Hot Isostatic Pressing)等の先端的な焼結法をとることも考えられるが、経済的な面あるいは複雑形状への要求から、易焼結原料粉末を得ることが望まれる。粉末合成には有機系試薬を用いる方法や、気相からの析出反応も考えられるが、経済化、工業化を図る点では水溶液からの沈殿法が優れている。
 
 本研究では、以上の困難の克服を図る目的で水溶液からの沈殿法の一種である均一沈殿法によるYAG原料粉体の合成を試みた。すなわち各原料水溶液中に100℃付近で分解し沈殿材として作用する尿素を室温で溶解させ、その溶液を100℃まで徐々に加熱した。その結果、溶液のpHは徐々に上昇し、95℃以上で定量的に目的とする原料物を沈殿させることができた。得られた粉体は、900から1100℃程度の温度で仮焼し原料粉体とした。この原料粉体は1400℃程度の低温でも単相化させることができ、さらに1600℃以上の温度で焼結する事で単結晶体と変わらない透明体を得ることができた。また、均一沈殿法は容易に組成をコントロールしうることから、腐食特性に極めて大きな影響を及ぼす粒界組成や構造を精密にコントロールする事ができた。これをさらに発展させ、現在は多結晶レーザーホスト材としても可能になり、優れた直線透過率を利用した発光管としての応用も期待できるようになっている。


図1  液体金属ナトリウム浸潤試験(1000時間)前後の試料重量変化

 YAG材質そのものと開発された焼結体材料の腐食特性を評価する目的で、焼結体材料は液体金属ナトリウム条件下、単結晶材料は高温アルカリ水条件での試験と液体金属ナトリウム条件下での試験を試みた。金属ナトリウム試験の結果を図1に示した。これまでの試験で極めて優れているとされたアルミナ単結晶は550℃に比して650℃の試験では腐食量の増加傾向が明瞭に認められた。また、アルミナ焼結体ではさらに腐食が著しく、粒界腐食が優勢であることがうかがわれる。一方アルミナに比して、YAG材はさらに優れた耐食性を示していることが判明した。腐食量は550℃、650℃ともほとんど変わらない事に加え、焼結体は単結晶に匹敵する耐食性を示した。この事は、YAG粒界が液体金属ナトリウムに対して極めて強い耐食性が有ることを示している。


図2  Corrosion rate in 2N-KOH vs. reciprocal temperature

 図2には高温アルカリ水条件下での結果を示す。ここでは粒界の影響を除くため単結晶を用いた。温度範囲としては150℃から250℃までとし、腐食液として2NのKOH水溶液を用いた。腐食量や腐食の様子を重量変化やSEM表面粗さ計を用いての計測により評価した。その結果、どの温度域においてもYAG材が優れていることが判明した。
 
 さらに、YAG焼結体の高温での機械的特性を調べる目的で、クリープ試験を行った。試験は真空中で行い、方法としては評価の曖昧性が少ない引っ張り試験を採用した。粒径は機械的強度を考慮して数ミクロンに押さえたものを使用した。その結果、1400℃まではほとんどクリープを示さないが、1450℃以上では顕著なクリープが観測された。しかしながら、この結果は通常のアルミナよりは優れた特性を示しており、酸化物では抗クリープ性が優れているとされるムライトに迫る特性を示した。また、応力指数は1.44となっており、拡散クリープ機構である場合の1に近い値となっていることが特徴である。また、クリープの活性化エネルギーは450kJ/molとなっており、酸素体積拡散の400kJ/mol近傍の値に近いものとなっている。ただし、陽イオン関係の拡散データが不十分であり、この値のみから機構を判断するにはいたっていない。
 
 以上のように、YAG焼結体は化学的特性や光学的特性に優れているばかりでなく、高温材料としての特徴も備えた材料であり、広く原子力産業用材料としての応用が期待される。
 

コメント    :
 YAGは機械的特性や化学的、光学的特性が優れていることは判明したが、複酸化物であることから来る特有の困難もある。すなわち、組成を精密にコントロールしないと、異相が混入する結果となり、それが化学的、光学的特性を減じる結果となる。この点、均一沈殿法は組成コントロールが容易であり、優れた作製法であると言える。
 
 セラミックス材料は粒径のコントロールが肝要であるが、本材料ではSi成分を微妙に(数ppmから数百ppm)コントロールすることで、数ミクロンから100ミクロンぐらいの均一な粒径のものが得られることも大きな特徴である。
 

原論文1 Data source 1:
Ion Diffusion and Degradation in Ceramics
T. Mitsuhashi, H. Haneda, S. Otani, *S. Kano and *E. Yoshida
無機材質研究所、*動力炉核燃料開発事業団
Proc. Int. Symp. on Material Chemistry in Nuclear Environment, Tsukuba (1992) pp. 109-116.

原論文2 Data source 2:
複合環境用セラミックスのマルチコンポジット化とその多次元系評価
三橋 武文
無機材質研究所
原子力工業 42 (1996) pp. 33-37.

参考資料1 Reference 1:
透光性YAGセラミックスの合成と特性評価
羽田 肇、白崎 信一、三橋 武文、*柳谷 高公
無機材質研究所、*神島化学工業(株)
エレクトロセラミックス 17 (1993) 23.

キーワード:高速増殖炉、イットリウムアルミニウムガーネット、YAG、液体金属ナトリウム、水熱、粒界
fast breeder reactor, yttrium aluminum garnet, YAG, liquid sodium metal, hydro-thermal, grain boundary
分類コード:110202, 110503

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